最終回

7月24日から始ったこの物語。


車に初乗車してエンストをしたり、
アクセルとブレーキを間違えてエンストしたり、
断続クラッチが掴めずクランクでエンストしたり、
初路上でエンストしたり、
交差点の中心でエンストしたり、
世界の中心でエンストしたり、
信号変わるのが以外に早くてエンストしたり、
坂のある踏み切りでエンストしたり、
最後の最後のみきわめでエンストしたり、
エンストしたりした。


でも、今日はしなかった。
……今日はエンストしなかった。


卒業検定だった。
僕は教習所を卒業した。


卒業式はみんなで『仰げば尊し』を歌った。*1
何人かの声はかすれて、教室の床には黒い斑点ができ、教官はついに耐え切れず俯いた。
校長が生徒、一人一人に卒業証明書(本検を受けるのに必要)と記念品(免許書を入れるケース)を手渡した。
校長は最後に「次は運転免許試験です。頑張ってください」と力強く教習車の中から手をあげて言った。
そして、その教習車はS字クランクへ消えていった。
僕は校長の修練された断続クラッチを見て元気づけられた。
さようなら、N教習所……。
また会う日まで。


次回、「教習所物語〜後日談(免許取得)〜」をお送りします。

*1:一部フィクションです。