『七つの黒い夢』

七つの黒い夢 (新潮文庫)

七つの黒い夢 (新潮文庫)

半年ぶりに乙一を読んだ。『七つの黒い夢』という恩田陸北村薫といった作家7人によるアンソロジーの中にある、『この子の絵は未完成』という作品である。かなり短いもので、たった30pたらず。時間にして10分で読み終えたが、なんだか残念な気持ちになった。
帯には「傑作ダーク・ファンタジー」と書かれている。もう名前負けもいいところだ。
作品の大まかな粗筋は、<私>の子供である遊馬くんはおえかきが大好きだけれど、彼はまだほんの小さな子供であり、常識が理解できないので、描いた絵からも匂いはするものだと思っている。そして彼の絵からは匂い・香りがたちのぼり<私>は困り果てる、というものだ。
設定としては乙一らしいかなとも思えなくもないが、予想できる展開で、ラストも驚きがあるわけでもない。正直、期待を裏切られた。
別に乙一の大抵の作品を読んできて、彼の作品の感覚なり作中風景なりが好きな自分としては、そんなに酷評するつもりはない。けれど、もう一点だけ言っておきたい。

この作中にこんな表現が出てくる。

「私は高速に近いスピードで夕食を作り……」

本なのに2度見してしまった。作中のテンションは変わらないのに、急に幼稚なレトリックが出てくるのだ。心底がっかりした。乙一ライトノベルよりの作家だとは重々承知しているつもりである。しかし、これはないだろう。
ともかく話を戻すと、子供の描いた絵から匂いがするというような全編にわたって平和な雰囲気が漂うこの作品の、どこにダーク・ファンタジーの要素があると言えるのだろうか。
表紙買いした人はかなり驚いたことだろう。興味のある人は一読をお勧めしておく。


本・読書 (100%) - 74位


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