『Y』

Y

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タイムスリップやパラレルワールドを題材にした小説はこの世には数え切れないほどあります。時間旅行〜タイムトラベルというブログによれば200冊は軽く存在しているようです。僕も『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をみて育った世代なので、タイムスリップものには目がないです。
以前にレビューした、ケン・グリムウッドの『リプレイ』は俗に「リプレイもの」と呼ばれる代表的な作品です。佐藤正午の『Y』はそのオマージュになっています。

『Y』のあらすじはこうです。私(秋間文夫)のもとに北川健と名乗る男から電話がかかってきます。彼は親友だと言いますが、私には覚えがありません。そして、私はその男の彼自身の書いた半生の物語を読むことになります。物語の中で彼は自分のことを「超境者」だと主張します。片思いを忘れられず、人生を変えたいと願って結果ある能力を得たといいます。私は初めその物語をまったく信じませんが、読み進めていくうち、信じるほかになくなります。アイリス・イン、アイリス・アウトによって時を越える能力、リプレイのジェフ・ウィンストンのように人生をやり直す能力を信じることになるのです。

人間誰しも、一度は「あの瞬間に戻ってやり直したい」という願望があるものです。『Y』の意味は人生の枝分かれということでしょうか。ある一点を境に人生が二つに分かれて、その先にまた点が存在し、またまた二つに分かれる、そうやって世界が存在してもおかしくはないはずです。

ここまではタイムスリップをメインにレビューしましたが、この小説はラブストーリーとしても読むことができます。恋を実らせるために過去に戻る、という行為自体がもうすでに恥ずかしいぐらい熱い話です。「あの時にああしてれば!」なんて良くあることですよね。作中の人間関係はおもしろいほど交錯しているので、読み応えがあります。

最近は筒井康隆の『時をかける少女』をはじめ、浅田次郎の『地下鉄に乗って』が映像化され、タイムスリップものが人気です。ぜひこの機会にタイムスリップ小説を読んではいかがでしょうか。


本・読書 (100%) - 60位


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