街を歩いている恋人達は、なぜそんなに幸せそうな顔で笑っているのですか。

自分は幸せ貧乏だと思う。恋人ができると「今回はいつまで続くだろう」とか、「どうせまた嫌われるんだ」などと卑屈な考えを持つ。今こんなに幸せなんだから、別れた後はひどいことになるぞ、なんて怯えている。
もちろん、何度もこの考え方を変えようとした。好きな相手を幸せにしようと楽しい話をしたり、嫌われないように清潔にしたり、相手が求めていることが何なのか想像して、より好かれようと努力をした。相手は喜んでくれて、数え切れないくらいの約束ができた。
けれど、何度やってもうまくいかない。付き合い始めに心の中で「これはもって3ヶ月だな」と予言すると、まったくその通りになる。最後は恐ろしいくらいの罵詈雑言の浴びせあいだ。自分も相手もこの恋愛をノーカンにするくらいのケンカが待っている。その後はきっぱり別れて、元恋人とは口も利けなくなる。たぶん、自分の「長くは続かない」というどす黒い考えが体、もしくは頭から漏れて伝わってしまっているのだろう。もしくは私の言葉、態度に表れて相手に伝染するのだ。そんな自分の負の力に負けてしまう。
それで、こうして不幸気取をする自分に嫌悪感を抱く。「世界一惨めな私」に浸るなんてバカ以外の何者でもない。だいたい恋痴なのを自慢げに話すなんて、死んだほうがマシだ。付き合った人間全員のフルネームを忘れるほどの甲斐性がないくせに。相手の顔も忘れ、起きたできごとも忘れるくせに。恋人が欲しいなんて10世紀早い。お前は来世でも恋愛すんな。

駅前で彼女の手を自分のポケットに導いている男がいた。彼女の照れくさそうな顔が幸せでいっぱいだ。最近では街を歩く恋人達を見て嫉妬するものの、ちょっとした尊敬心まで芽生えるようになった。みんな感情のコントロールができるんだ。いい相手を選ぶ目を持っているんだ。「凄いなあ」と感心するばかりだ。その幸せそうな恋人達を避けて、今は好きな人や恋人がいないほうが楽でいい。楽でいい、と思った。