夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

ダンは婚約者であるベルに裏切られ絶望のふちを彷徨うことに。冷凍睡眠<コールドスリープ>で、もうなにもかもが片付いてから人生をやり直そうと目論むが……?

この小説は「時間旅行〜タイムトラベル」で紹介されていたことがきっかけで知りました。タイムトラベルものと言えば、ケン・グリムウッドの『リプレイ』以上の傑作はないと思っていたので、そのサイトで特に人気があったことが忘れられませんでした。タイムパラドックスをどう処理しているのか、リアリティやディテールはどれほどなのかと、読む前から構えていました。
しかし、読んでみるとそんな細々としたことは無意味なのだと気づかされました。ダンは情けないし、猫のピートはえらく男前で、もう彼らを応援するほかにすることがありませんでした。SFというよりは純粋にストーリーを楽しめた気がします。
もちろんSF的なガジェットも盛り込まれており、50年前に書かれたとは思えない「ありそうな未来」がそこにはあります。作中の21世紀では、ベタな未来人スーツみたいなものが登場して笑えたりしますが、滑走道路(スライド)は現に存在していますし、立体映像も完全な普及はしていませんがあることはあります。2007年になって、その「憧れの未来」にいるはずなのに、僕が思うような未来が書かれていることが何よりもおもしろいです。
タイムスリップものが好きな人にお勧めしておきます。