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- 作者: 内田春菊
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1998/07/10
- メディア: 文庫
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南くんの恋人って言ったら、それはドラマのイメージ(見たことはないけど)でハートフルコメディだと思うじゃないですか。違いました。やっぱり内田ワールドでした。南くんとちよみの関係は可愛らしい恋人同士なんていいものではありません。そもそもラブストーリーでもない。言ってしまえば、男のフェティシズムを満たす為の作品なのです。
まず、彼女の少女イメージはロリコン以外の何者でもありません。そして、ちよみが南くんに寄りかかることしかできないところなんか「弱弱しくて可愛い」ものです。普通考えたら、まともな女性なら小さくなったとしても思考力が落ちない限り、それほどおんぶにだっこになるはずはありません。南くんが「ちよみにはオレしかいない」と思い込むことに男のエゴを感じました。
そんな作者の男心をもてあそぶような話を読んで、最後に大ショックを受けてしまいました。ちよみがいなくなった後、南くんは学校帰り、女の子に「さいなら」と手を振るコマがあります。これちょっと見たら、仲の良い友人と学校帰りに別れただけだと思うのですが、これって、南くんに新しい恋人ができたとも読めますよね。シルエットでは野村さん(以前浮気した相手)のような気もするし、違うかもしれない。
あと、この後にモノローグで「オレのまわりは何ひとつかわらない」と言って、偶然小鳥が埋めているのを見ます。子供が「ママピーコどうして死んだの?」と聞き母親は「小さいからよ」と答え、南くんはちよみを思い出し泣きます。僕はこのシーンのおかげで泣きました。たぶん、泣くのなら数ページ前のはずなのですが、なんでここで泣いたのか。それは、南くんにとって、もしかしてちよみがいなくなったことは「大切なお人形がなくなって悲しい」って気持ちがわずかに含まれているんじゃないかと思ったからです。ただ純粋に大切な恋人をなくして悲しいという話なら泣きはしません。南くんのそれらの姿を見て、ちよみの存在はなんだったのかとなんだか悔しくなりました。