バイトが終わって友人とご飯して帰ったのが9時だった。
風呂の用意をしている時に、その友人から着電した。
「ちょっと今でてこれる?」
「どうした」
「なんか……なんか死にそうな人がいる」
はじめ、冗談かと思ったが、彼があまりにも真剣なので、様子を見に行くことにした。
組から追われている893だったらドラマティックだな。そんなことを考えていた。
うちの近くの場所で落ち合うと「こっち、こっち!」と彼は猛ダッシュ。僕も負けじと猛ダッシュする。


300メートルくらい走っただろうか。
走りながら友人に聞く。
「どこ?」
「ほらあの人」
遠くの方に人影。でも、いるのかいないのかわからない。幽霊? まさか。
「もしかして女の人?」
「そう」
影まで10メートル。影はなんだか頼りない足取りで、今にも倒れそうだった。
まるで睡眠薬20錠を一気飲みしたみたいな感じ。うん、そんな感じ。
近づいてみると、二十台後半の女性だった。くせっ毛で目が小さい。
僕は前にまわって声をかけた。
「だいじょうぶですか?」
「……」
一瞬目が合う。でも、すぐそらされた。
僕は明らかにアブナイその目つきに圧倒されながらも、なお声をかける。
「あの、家はどこですか?」
彼女は黙ったまま、ふらふらと歩いていく。この先には車道がある。
「じゃあ、名前は?」
依然黙ったままである。
僕は先に車道に出て危険がないかをチェックする。オーケー。車は一台も来ていない。
そして友人に向きなおり言った。
「どうしようか」
「うーん」
お互い黙ったまま女性を見る。このまま放っておくことはできない。
「警察……かねぇ」
「そうだね」


それから数分後、警察に電話する。でも、なかなかでない。
すると彼女は僕のほうを向いて、小さくイヤイヤと手を動かした。
ここで彼女が理解と認識はできることに気づいた。けれど、彼女を一人にしてはおけない。
続けて2回かけなおす。それで繋がった。
40代のオバハンらしきオペーレーターの声が携帯から聞こえてきた。
「どうしました?事件ですか事故ですか」
いや、どっちでもないんですけどね。


かくして色々あった末の40分後、彼女をやっと警察に引き渡すことができた。
しかし、県警の対応の遅さに驚かされた。来るのホント遅かった。
それからすぐ、僕と友人の個人情報を根こそぎ聞かれる。僕はもちろん本名を名乗った。


その後には、救急車が呼ばれ、ちょっとした騒動に。
最近の救急車の赤ランプは流線型でかっちょよかった。
降りてきた隊員の一人が彼女を軽く診断する。やはり精神的な、なにかだという。
その間彼女は婦警さんに両腕を掴まれて嫌がってた。それに、ちょっとだけ泣いてた。
診断が終わると彼女は、救急車に乗せられ、駅のほうへ去っていった。


後半、傍観者と化していた僕らは、救急車が行っても、ぼーっと彼女のことを思って世間話をした。
僕としては彼女のお腹が、体全体の肉付きに対して大きいことから、妊婦なんじゃないかと推測した。それを友人に話すと、「考えすぎだろ」と笑われた。


それにしても、人生どんなことがあるかわからない。
最後まで彼女は自分の名前と住所を言わなかった。
やっぱり警察に連絡したのは悪かっただろうか……。
でもね、僕らにはそれしか方法がなかったのです。


なんか、ごめんね。


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