春行きバス 4 (フラワーコミックス)

春行きバス 4 (フラワーコミックス)

4巻で完結してしまいました。表紙買いがきっかけだったのですが、べたべたな恋愛もので、まるで少女マンガのお手本みたいな本でした。「これぞ少女マンガだ、心して読め」と友人何名かに強制的に読ませたくらいです。
バス縛りのオムニバスという二重苦でここまでひねり出すとは、どれだけ料理上手なのかと思いました。
マンガ批評家・コラムニストの夏目房之介曰く、ラブコメには三角関係とすれちがいが必須条件らしいのですが、このマンガには女の子と男の子の2人が何度かすれちがう話がほとんどです。(「Last Bus stop 終点ははじまり」などは除く)確かに1対1だと恋愛世界(ユートピア)は閉じられたものになり、ドラマが生まれずらいものです。『タッチ』や『めぞん一刻』、最近のものでは『クピドの悪戯』などラブコメの基本は三角関係であると言っても間違いはないでしょう。僕はこのマンガの「すれちがい」の上手さと、読者の裏切り方に注目しました。
これは各話のパターンを書き出すとおもしろいです。基本形の1話では、女の子が男の子を気に入り、男も意識します。これで幸福度はプラスですが、あるちょっとした勘違い(すれちがい)により大幅にマイナスに。ラストは仲直りして急接近するのでハッピーエンドになります。
これが2話では、男が女の子を意識してちょいプラスになりますが、一人舞い上がっていたことに気づきマイナスになります。(すれちがい1)たけども、女の子も惹かれだして幸せムードなります。ここでハッピーエンドかと思いきや逆走発言(すれちがい2)。必死に告白し、仲直りかと思いきやより嫌われてしまいます(すれちがい3)。彼女も素直じゃないんです。ラストは友人に彼女への思いを語っているところを聞かれて、ハッピーエンドとなります。
これらの展開だけで読者の気持ちはもてあそばれてしまいます。上げては落としの連続だから「読み」もできると思われるかもしれませんが、キャラクターの機微が複雑でミスリードされまくります。そりゃハッピーエンドが多いのだから「読み」もなにもないのかもしれませんが、「2人だけで好きだ嫌いだ」ってやってるだけなのにこのおもしろさなのです。三角関係になって片方が死んじゃうようなドラマはありません。ラブコメに必須であるはずの三角関係が全17話くらいあるうちで2話程度しかありません。
単行本の最後には「オムニバスは大変だったけど、楽しかったです」と書かれています。僕は長期連載の少女マンガよりも、ずっとしんどかったのではないかと想像します。それこそショート・ショートの限界を見た星新一に近い感覚を味わったのではないでしょうか……。