『時計じかけのオレンジ』

フルメタル・ジャケット』の前半は傑作でした。ハートマン軍曹のキャラクターとあの曲は忘れられません。僕はレナードの変化が特に気に入っていました。たぶん、その話をしたんだと思います。キューブリックつながりで友人に『時計じかけのオレンジ』を借りました。
その友人とは季節の変わり目に会って酒を飲む仲です。彼の勧める作品はどれも興味深いものばかりで、たとえ期待しすぎても、その期待を上回るようなものを教えてくれます。今回の『時計じかけのオレンジ』もかなり良かったです。
山高帽のアレックスはかなり魅力的で、そのほかの登場人物も特徴的で見入ってしまいました。しかし、この映画のいいところは映像美ばかりではありません。その内容のグロテスクさがいいのです。アルトラ(超暴力)と性欲の塊であるアレックスが変化していくさまは少しばかり切ない。
アレックスが刑務所を出てからショッキングなシーンが連続します。ここが鳥肌ものです。自分がアレックスに同調して、怒ったり怯えたりすること気づいてより楽しめました。また刑務所に入り牧師と聖書の一説をそらんじる場面があるのですが、ここで考えさせられました。刑務所の間はほとんどアレックスの内面は描かれていません。彼はもちろん猫をかぶって牧師に取り入っていたのですが、ここでの静かな抑制があるから、前半の暴力を放出するシーンが彼の残忍さを浮かび上がらせることに成功しているような気がします。そして全体を通して、アレックスが正常だった瞬間は最後まで一度もないのだろうかと不安になってきます。二三度見ることによって楽しめる作品だと思います。